「あの人にしかわからない」が経営リスクになる ― 見えない退職リスクの正体

退職者一人あたりの「穴」は、以前より大きくなっている
「またベテランが辞めてしまった」「引き継ぎが間に合わないまま担当が変わった」——こうした場面に、心当たりはないでしょうか。
退職そのものは、どの会社にも起こり得ることです。しかし今、その一件が組織に与える影響は、かつてよりも大きくなっています。理由は単純で、辞めた人の穴を埋める人材を、以前ほど簡単には採用できなくなっているからです。人手不足が構造化した今、退職は「補充すればいい話」では済まなくなりつつあります。
本記事では、人手不足が退職リスクをどう変化させているのかをデータで確認したうえで、特に中堅企業で見過ごされがちな「属人化」という論点、そしてその備え方について整理します。

データが示す、人手不足の深刻化
まず、退職者一人あたりの重みが増している背景を、データで確認します。
帝国データバンクの調査によれば、人手不足を主因とする倒産は2025年に427件(前年比+24.9%)に達し、3年連続で過去最多を更新しました(帝国データバンク)。人手不足はもはや一部の業界に限った話ではなく、事業継続そのものを脅かす経営課題になっています。
さらに、中小企業の60.0%が人手不足を実感していると回答しており、これは前年から11.5ポイントの上昇です。同時に大企業では2025年の賃上げ率が平均+5.52%に達しており、採用市場において中小企業がこれまで以上に不利な立場に置かれつつあります(Manegy / 帝国データバンク)。大企業が賃金で人材を引き寄せる一方、中小企業は「採って埋める」という選択肢そのものが以前より狭くなっているのです。
中長期で見ても、この傾向が反転する材料は見当たりません。パーソル総合研究所の推計では、2030年までに日本全体で644万人の人手不足が生じるとされています(パーソル総合研究所)。「辞めた分は採用で補う」という前提そのものが、これから先はますます成り立ちにくくなっていくと考えられます。
実は、中堅企業ほど新卒が定着しにくい
退職リスクを考えるうえで、もう一つ押さえておきたいデータがあります。厚生労働省が毎年公表している「新規学卒者の離職状況」調査です。2022年3月卒業者を対象にした最新の調査(2025年3月時点、卒業から3年以内)では、大卒者の3年以内離職率は全体で33.8%(前年から1.1ポイント低下)でした。
注目したいのは、この離職率が事業所の規模によって明確に異なるという点です。同調査では、高卒・大卒のいずれも「規模が小さいほど離職率が高い」傾向が一貫して見られており(nippon.com)、従業員1,000人以上の大企業では約27.0%であるのに対し、それより小規模な企業では、これを上回る水準にあることが報告されています(カイラボ)。
つまり、200〜1,000名規模の中堅企業は、大企業ほどの採用力・ブランド力を持たないまま、大企業よりも新卒が定着しにくいという、二重に厳しい状況に置かれているのです。せっかく採用した若手が数年で離職してしまえば、採用コストも教育コストも回収できないまま、また一から人材を探すことになります。

なぜ「属人化」が退職を経営リスクに変えるのか
ここまで見てきた人手不足や離職率の高さそのものよりも、実は見落とされがちで、かつ対処可能な論点があります。それが「属人化」です。
退職による本当のダメージは、その人の"作業"が抜けることではなく、その人にしか分からない知識やノウハウ、社内の人間関係の把握、判断基準がまとめて失われることにあります。以前の記事「300人の壁」でも触れた通り、従業員が200〜300名を超える規模の企業では、非公式な情報共有がすでに限界を迎えている一方、それに代わる仕組みがまだ整っていないケースが多く見られます。この状態で特定の担当者が退職すると、影響はその人の担当業務にとどまらず、その人を頼っていた周囲の業務にまで連鎖的に広がります。
具体的には、次のような形で表面化します。
- 後任者が「何から手をつければいいか分からない」まま引き継ぎを迎える
- 取引先や社内の他部署が「誰に聞けばいいか」を失い、業務が一時的に止まる
- 退職者本人しか把握していなかった経緯や判断基準が失われ、同じような検討や失敗が繰り返される
こうした事態は、退職が決まってから慌てて対処できるものではありません。平時から「誰が何を知っているか」が組織として見えている状態をつくれているかどうかで、退職一件あたりの経営インパクトは大きく変わってきます。

辞める理由は「待遇」だけではない ― 定着を左右する心理的な要因
退職リスクというと、給与や待遇面の対策に目が向きがちですが、それだけでは説明のつかない離職も少なくありません。
ある調査では、**新卒社員の44%が入社3年以内の転職を意識する「転職予備軍」**と自認しており、その主な要因として「配属ガチャ」(希望と異なる配属)、成長実感の欠如、心理的安全性の低さが挙げられています(Penmark/PR TIMES)。
背景には、日本企業全体のエンゲージメントの低さもあります。Gallup社の調査によれば、日本の「熱意あふれる社員」の割合はわずか6〜7%で、世界平均の23%を大きく下回ります(Gallup)。自分の貢献が周囲に見えている、成長を実感できている、気軽に相談できる相手がいる——こうした実感の乏しさが、待遇面の不満以上に定着を左右している可能性があります。
見えない退職リスクに備えるには
ここまでの内容を踏まえると、備え方の方向性は見えてきます。属人化とエンゲージメント低下という二つの根本原因に対して、次のような仕組みを平時から整えておくことが重要です。
- 「誰が何を知っているか」を可視化しておく。 特定の担当者の頭の中にしかない情報を、日々の業務の延長線上で自然に蓄積・共有できる状態にしておくことで、急な退職があっても「聞ける相手」がゼロにはなりません。
- 部門や役職を越えて、気軽に質問・相談できる文化をつくる。 後任者が孤立せず、必要な情報にたどり着けるようにするための仕組みです。
- 日々の貢献を、目に見える形で認め合う。 「見てもらえている」という実感がエンゲージメントを支え、特に若手の定着に直結します。
Beatrustは、こうした課題に対応するために設計されたプロダクトです。社員一人ひとりのスキルや関心を、日々の「Thanks(感謝)」のやり取りを通じて自然に蓄積・可視化するプロフィール機能、そして部門を越えて誰でも気軽に質問できる「Ask」機能により、特定の個人に知識が集中する状態を防ぎ、退職が起きても組織としての知見が失われにくい状態をつくる支援をしています。

まとめ:「辞められて困る前に」できること
人手不足が構造化した今、退職は「採用で埋め合わせればいい」問題ではなくなりつつあります。特に200〜1,000名規模の企業は、大企業ほどの採用力を持たないまま、新卒の定着でも厳しい状況に置かれているというデータもあります。
退職そのものを完全に防ぐことはできません。しかし、属人化を解消し、「誰が何を知っているか」が見える状態をつくっておくことで、一件の退職が経営に与えるダメージを最小限に抑えることはできます。
もし貴社もこうした課題に心当たりがあるようでしたら、ぜひ一度Beatrustにご相談ください。
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